我々の研究のテーマは、「腎臓による血圧や水電解質、エネルギーなどの恒常性維持機構を明らかにし、それが破綻し全身に及ぼす病態を理解し、それに対する治療戦略を構築する」事にあります。このことは腎臓病自体の治療法の開発とともに、慢性腎臓病(CKD)など腎臓を出発点とした多臓器の障害に対応するための研究にもつながります。着実に積み重ねられた基礎研究の成果をもとに新たな治療戦略を創出し、臨床応用を実現することを目指しています。また予想される結果を導き出す研究ではなく、予想を超えた結果を見出す「夢のある研究」が行える様に日々努力しています。
これまでの当研究室で実績のある遺伝性腎疾患における輸送体研究などを基軸にしながら、遺伝子研究、慢性腎臓病研究まで発展させ、さらに創薬などを展開していきます。これによって、希少難病から慢性腎臓病や高血圧などのコモンな疾患までを標的として、各々の病態解明とそれに基づいた新規治療法の開発につなげていきます。
基礎研究
臨床研究
偽性低アルドステロン症II型という遺伝性高血圧性疾患の原因遺伝子として報告されたWNKキナーゼは、腎臓において塩分出納の主たる制御機構の中心分子となり、電解質や血圧を生理的に調節していることを我々は発見しました。さらに、WNKキナーゼは腎臓における生体内への塩分の出納調節のみならず、血管のトーヌス調整、脂肪分化、筋組織分化など全身臓器においても重要な役割を担っていることを明らかにし、塩分や電解質と各種臓器をつなぐ鍵分子であると考えております。これらの研究は、偽性低アルドステロン症II型(PHAⅡ)やバーター(Bartter)症候群、ギッテルマン(Gitelman)症候群など希少な遺伝性尿細管疾患の治療のみならず、高血圧や肥満などメタボリックシンドロームや筋萎縮(サルコペニア)などの一般疾患に対する治療につながると考えられ、創薬研究にもつなげております。
Yoshida S, et al. Clin Exp Nephrol. 2018 Dec;22(6):1251-1257.
PHAⅡではKLHL3の発現量低下が起こることを、病態モデルノックインマウスを作成し証明した。
Hashimoto H, et al. Metabolism. 2018 Aug;85:23-31.
糖尿病治療薬であるメトホルミンが、腎遠位尿細管のNa-Cl共輸送体(NCC)のリン酸化を抑制し塩分排泄を増加させることを明らかにした。
プレスリリース「糖尿病治療薬メトホルミンが、腎臓からの塩分排泄を増加させる ― メトホルミンが余分な塩を排泄し血圧を下げる可能性を発見 ―」
Mandai S, et al. Sci Rep. 2018 Jun 14;8(1):9101.
血圧制御因子WNK1キナーゼが,骨格筋においてはFOXO4の転写活性を調節し骨格筋肥大を制御することを発見した。このWNK1-FOXO4シグナルの機能低下がCKDによるサルコペニアの一機序である可能性も示した。
Nomura N, et al. Biosci Rep. 2018 Jan 30;38(1). pii: BSR20171243.
カリウム摂取不足による血圧上昇のメカニズムに対するClC-Kクロライドチャネルの関与を遺伝子組み換えマウスを用いて示した。
Susa K, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2017 Sep 23;491(3):727-732.
変異KLHL3によるPHA II発症にはWNK4の存在が不可欠であることを証明した。
Impaired degradation of medullary WNK4 in the kidneys of KLHL2 knockout mice.
Kasagi Y, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2017 May 27;487(2):368-374.
KLHL2ノックアウトマウスを作成し、生体におけるKLHL2の働きを明らかにした。
Arai Y, et al. Sci Rep. 2017 Apr 20;7:46580.
塩分負荷が腎臓のIFNγ-JAK1-STAT1シグナルを制御することを明らかにした。
プレスリリース「塩分負荷が腎臓の近位尿細管細胞のインターフェロンγ誘導性の免疫応答を抑制する― 塩分濃度による新しい免疫修飾機構の発見 ―」
Loop diuretics affect skeletal myoblast differentiation and exercise-induced muscle hypertrophy.
Mandai S, et al. Sci Rep. 2017 Apr 18;7:46369.
塩の輸送体NKCC1は,分化誘導した骨格筋細胞や運動後のマウス骨格筋でその発現が増加しており,ループ利尿薬で阻害すると骨格筋形成や肥大が抑制されることを示した。
プレスリリース「骨格筋の形成· 肥大にNa-K-Cl 共輸送体(NKCC)が関与 ― ループ利尿薬がサルコペニアに関与する可能性を示唆 ―」
WNK4 is an Adipogenic Factor and Its Deletion Reduces Diet-Induced Obesity in Mice.
Takahashi D, et al. EBioMedicine. 2017 Apr;18:118-127.
WNK4ノックアウトマウスは肥満になりにくく、WNK4が脂肪細胞に高発現し、脂肪分化を制御していることを発見した。
プレスリリース「血圧制御因子WNK4 が脂肪組織では脂肪細胞の分化を制御する ― メタボリックシンドロームの病態解明に期待 ―」
Sasaki E, et al. Mol Cell Biol. 2017 Mar 17;37(7).
PHAIIの原因遺伝子であるKLHL3を欠損させたマウスをを作成し、KLHL3変異によって起きる優性遺伝形式PHAIIモデルマウスと比較することで、真の発症メカニズムを明らかとした。
Shoda W, et al. Kidney Int. 2017 Feb;91(2):402-411.
カリウム摂取後、カルシニューリンが活性化することでNa-Cl共輸送体が脱リン酸化され不活性型になり、尿中へのカリウム排泄が促進されるという新たなNa-Cl共輸送体の制御機構を明らかにした。
プレスリリース「摂りすぎたカリウムを腎臓がすぐに尿に排出する仕組みを発見 — 高カリウム血症の病態解明と治療法開発への期待 —」
Mandai S, et al. Hypertension. 2015 Dec;66(6):1199-206.
GWASで高血圧との関連性が示されたSPAKのタグSNPを、CRISPR/Cas9システムを用いてHEK293細胞にノックインし、実際にSPAKの発現量が増加することで高血圧に寄与する可能性を示した。
Involvement of selective autophagy mediated by p62/SQSTM1 in KLHL3-dependent WNK4 degradation.
Mori Y, et al. Biochem J. 2015 Nov 15;472(1):33-41.
選択的オートファジーのアダプタータンパクであるp62は、KLHL3と結合することでWNK4を一塊としたオートファゴソームを形成し、WNK4分解代謝に重要な役割を担っていることを示した。
Impaired degradation of WNK by Akt and PKA phosphorylation of KLHL3.
Yoshizaki Y, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2015 Nov 13;467(2):229-34.
PKAとAktによるKLHL3のリン酸化部位を明らかとし、インスリンやバソプレシンがWNKキナーゼ分解を抑制し、WNKシグナルを活性化するメカニズムを示した。
Araki Y, et al. Biol Open. 2015 Oct 21;4(11):1509-17.
PHAIIの原因となるCul3変異マウスを作成し解析を行った。
Zeniya M, et al. J Am Soc Nephrol. 2015 Sep;26(9):2129-38.
血管トーヌス調整には、血管平滑筋におけるKLHL2を介したWNK3発現制御というメカニズムが介在することを示した。
プレスリリース「アンジオテンシンIIによる血管収縮にオートファジーが関与 ― 高血圧の新規治療法開発への応用が期待 ― 」
Discovery of Novel SPAK Inhibitors That Block WNK Kinase Signaling to Cation Chloride Transporters.
Kikuchi E, et al. J Am Soc Nephrol. 2015 Jul;26(7):1525-36.
独自のELISAスクリーニング系を構築し、SPAKキナーゼ活性阻害薬スクリーニングを実施した結果、in vivoでも阻害活性を持ついくつかの有望化合物を同定した。
プレスリリース「塩分感受性高血圧に関わるSPAKキナーゼの新規阻害物質を発見 ― 生活習慣病を伴う高血圧に有効な新規治療薬の開発に期待 ―」
Impaired degradation of WNK1 and WNK4 kinases causes PHAII in mutant KLHL3 knock-in mice.
Susa K, et al. Hum Mol Genet. 2014 Oct 1;23(19):5052-60.
KLHL3変異によるPHAⅡは、WNK蛋白が分解されずに過剰に蓄積し、WNK-OSR1/SPAK-NCCカスケードが亢進するために発症することをPHAII変異ノックインマウスの解析により証明した。
プレスリリース 「塩分摂取が高血圧に結びつくメカニズムを新たに解明」
Impaired KLHL3-mediated ubiquitination of WNK4 causes human hypertension.
Wakabayashi M, Mori T, et al. Cell Rep. 2013 Mar 28;3(3):858-68.
ユビキチンE3リガーゼのアダプター蛋白であるCullin 3, KLHL3がWNK4を基質として分解制御することを見出し、PHAIIではこれらの複合体形成不全によるWNK4分解不全が病態の本体であることを証明した。
Sohara E, et al. PLoS One. 2011;6(8):e24277.
インスリンがNa-Cl共輸送体を活性化することを明らかとし、メタボリックシンドロームなど高インスリン血症によって塩分感受性高血圧が起こるメカニズムを示した。
Ohta A, et al. Hum Mol Genet. 2009 Oct 15;18(20):3978-86.
WNK4低形成マウスを作成し、WNK4はNa-Cl共輸送体発現を正に制御していることを示した。
Chiga M, et al, Kidney Int. 2008 Dec;74(11):1403-9.
塩分摂取量はアルドステロンを介してOSR1/SPAKキナーゼならびにNa-Cl共輸送体の発現量を制御していることを示した。
Yang SS, et al. Cell Metab. 2007 May;5(5):331-44.
WNK4(D561A/+) 変異ノックインマウスを作成し、WNK4変異はOSR1/SPAKのリン酸化・活性化を伴って腎のNa-Cl共輸送体の発現量を増加させるというPHAIIの病態を解明した。
Overt nephrogenic diabetes insipidus in mice lacking the CLC-K1 chloride channel.
Matsumura Y, et al. Nat Genet. 1999 Jan;21(1):95-8.
ClC-K1クロライドチャネルのノックアウトマウスを作成し、ClC-K1が尿濃縮に重要であることを明らかとした。
Localization and functional characterization of rat kidney-specific chloride channel, ClC-K1.
Uchida S, et al. J Clin Invest. 1995 Jan;95(1):104-13.
ClC-K1がヘンレの細い上行脚(tAL)に発現し、tAL1におけるクロライド輸送を担っていることを示した。
アクアポリン(AQP)は主に水を通す膜輸送体で、1991 年に世界で最初に赤血球よりアクアポリン(AQP1)を発見した米国のAgre博士はその業績により2003年にノーベル化学賞を受賞されています。アクアポリン2(AQP2)は1990年代初頭に当研究室において発見された、腎臓集合管に存在する水チャネルです。その機能不全は腎性尿崩症の原因となり、また機能亢進は心不全の原因となるなど、腎臓の臨床において非常に重要な分子です。当研究室ではAQP2の発現機構、代謝機構、細胞内輸送機構の詳細を分子生物学的に解明し、カルシニューリンやPKAの局在変化がAQP2の活性化に重要であることを示してきました。またその知見に基づき、腎性尿崩症の治療薬、新しい利尿剤、新しい水代謝調節薬の開発を目指しています。
Ando F, et al. Clin Exp Nephrol. 2018 Jun;22(3):501-507. Review.
先天性腎性尿崩症の治療戦略に関する総説。バゾプレシン非依存性にAQP2水チャネルを活性化する方法について解説している。
Ando F, et al. Nat Commun. 2018 Apr 12;9(1):1411.
Protein Kinase A (PKA) と PKAのアンカータンパクであるAKAPsとの結合を阻害する低分子化合物FMP-API-1は、腎臓集合管のAQP2水チャネルを強力に活性化した。
プレスリリース「FMP-API-1が腎臓において尿濃縮に重要な水チャネルを強力に活性化する ― 腎性尿崩症や尿濃縮力低下による多尿に対する新規治療法開発へ期待 ―」
Wnt5a induces renal AQP2 expression by activating calcineurin signalling pathway.
Ando F, et al. Nat Commun. 2016 Nov 28;7:13636.
Wnt5aはカルシウムシグナルを活性化し、カルシニューリンを介してAQP2水チャネルを活性化した。
プレスリリース「腎臓において尿濃縮に重要な水チャネルをWnt5aが活性化する — 尿崩症の新規治療法開発へ期待 —」
Reciprocal interaction with G-actin and tropomyosin is essential for aquaporin-2 trafficking.
Noda Y, et al. J Cell Biol. 2008 Aug 11;182(3):587-601.
Sohara E, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Sep 19;103(38):14217-22.
Kuwahara M, et al. Am J Hum Genet. 2001 Oct; 69(4): 738–748.
Overt nephrogenic diabetes insipidus in mice lacking the CLC-K1 chloride channel.
Matsumura Y, et al. Nat Genet. 1999 Jan;21(1):95-8.
Aquaporins and ion conductance.
Sasaki S, et al. Science. 1997 Mar 7;275(5305):1490-1; author reply 1492.
Urinary excretion of aquaporin-2 in patients with diabetes insipidus.
Kanno K, et al. N Engl J Med. 1995 Jun 8;332(23):1540-5.
Cloning and expression of apical membrane water channel of rat kidney collecting tubule.
Fushimi K, et al. Nature. 1993 Feb 11;361(6412):549-52.
次世代シーケンサーはヒト全ゲノム配列を数日間で全て読み切ってしまうという画期的な新技術で、今後の遺伝子診断に大きく貢献するものと考えられます。腎臓遺伝病の原因として知られる遺伝子に加えて、その周辺遺伝子を含む約200種類の遺伝子を同時にかつ網羅的に診断できる腎臓病カスタム診断パネルを作成し、2014年度より運用を開始しています。腎性尿崩症、Bartter症候群やGitelman症候群などの遺伝性尿細管疾患、多発性嚢胞腎などの嚢胞性腎疾患、Alport症候群に至るまで、一度に遺伝子変異スクリーニングを行うことが出来ます。既知の遺伝子に変異が検出されなかったものについてはさらに全エクソンを網羅するエクソーム・シーケンスを実施することで、まったく新しい疾患原因遺伝子の同定を目指します。遺伝子診断のページもご覧ください [遺伝子診断]
Fujimaru T, et al. Clin Genet. 2018 Jul;94(1):125-131.
嚢胞性腎疾患の原因となる遺伝子の網羅的解析できる嚢胞性腎疾患診断パネルを作成し、多発性嚢胞腎の遺伝子変異と臨床的特徴を解析した。
プレスリリース「家族歴のない指定難病「多発性嚢胞腎」成人患者の遺伝学的背景と臨床所見の解明 ― 嚢胞性腎疾患の網羅的遺伝子診断パネルの作成と応用への期待 ―」
Severe Osteomalacia with Dent Disease Caused by a Novel Intronic Mutation of the CLCN5 gene.
Matsumoto A, et al. Intern Med. 2018 Dec 15;57(24):3603-3610.
網羅的遺伝子診断によりDent病の新たな責任変異としてCLCN5のイントロン変異症例を報告した。
Renal histology and MRI in a 25-year-old Japanese man with nephronophthisis 4
.
Takada D, et al. Clin Nephrol. 2018 Mar;89(3):223-228.
網羅的遺伝子診断でNPHP4に複合ヘテロ変異を同定した多発腎嚢胞患者症例を報告した。
ERCC4 variants identified in a cohort of patients with segmental progeroid syndromes.
Mori T, et al. Hum Mutat. 2018 Feb;39(2):255-265.
42例の遺伝学的未診断Werner症候群に対して全エクソンシークエンスを実施し、うち2例でCockayne syndromeの原因であるERCC4変異を責任変異として同定した。
Renal histology and MRI findings in a 37-year-old Japanese patient with autosomal recessive polycystic kidney disease
.
Ito Y, et al. Clin Nephrol. 2017 Nov;88(11):292-297.
網羅的遺伝子診断でPKHD1に複合ヘテロ変異を同定した多発腎嚢胞患者症例を報告した。
Inherited, not acquired, Gitelman syndrome in a patient with Sjögren’s syndrome: importance of genetic testing to distinguish the two forms.
Mishima E, et al. CEN Case Rep. 2017 Nov;6(2):180-184.
シェーグレン症候群に合併した後天性Gitelman症候群と考えられたが、網羅的遺伝子検査にてGitelmanの原因遺伝子であるNCCに責任変異が同定され、先天性と確定診断した一例を報告した。
Post-infectious Proliferative Glomerulonephritis with Monoclonal Immunoglobulin G Deposits Associated with Complement Factor H Mutation.
Takehara E, et al. Intern Med. 2017;56(7):811-817.
感染後PGNMIDの一例において,診断網羅的遺伝子解析により補体関連遺伝子であるCFHの変異を同定し、補体経路異常という病態の一端について言及し得た報告。
High incidence of BSCL2 intragenic recombinational mutation in Peruvian type 2 Berardinelli-Seip syndrome.
Purizaca-Rosillo N, Mori T, et al. Am J Med Genet A. 2017 Feb;173(2):471-478.
ペルーの一部農村地区にBerardinelli-Seip 症候群の原因であるBSCL2に新規変異が集積していることを報告した。
Mori T, et al. Clin Exp Nephrol. 2017 Feb;21(1):63-75.
次世代シークエンサーを用いて127種類の遺伝性腎疾患責任遺伝子を同時に解析する網羅的遺伝子診断パネルを構築した。
A novel heterozygous mutation in the ATP6V0A4 gene encoding the V-ATPase a4 subunit in an adult patient with incomplete distal renal tubular acidosis.
Imai E, et al. Clin Kidney J. 2016 Jun;9(3):424-8.
ATP6V0A4変異は本来ホモないし複合ヘテロ接合性変異で病的意義をもつと解釈されてきたが、ヘテロ接合性変異単独でも遠位尿細管性アシドーシスの原因となり得ることを報告した。
慢性腎臓病(CKD)は日本に1,330万人もの患者がおり、CKD進行による透析への移行を防ぐことが重要です。しかし現在、有効なCKDの治療法は極めて限られており、新規治療法の開発が待ち望まれています。腎臓は非常に高いエネルギー消費率を持つ臓器でありますが、我々はCKDの様々な因子がエネルギー恒常性維持機構の中心分子であるAMPKの機能不全を引き起こすことで細胞のエネルギー状態が維持されず、腎臓自身がエネルギー不全状態に陥っていることを明らかにしました。このCKD固有のAMPK機能低下メカニズムによるCKD増悪の負のサイクルを改善することがCKD新規治療につながると考えられます。この独自の視点などを踏まえ、新たなCKDの治療方法発見に取り組んでいます。
Failure to sense energy depletion may be a novel therapeutic target in chronic kidney disease.
Kikuchi H, et al. Kidney Int. 2019 Jan;95(1):123-137.
CKDによって蓄積される尿毒素などが腎臓や心臓、骨格筋などにおいてAMPKの機能低下をもたらし、さらなるエネルギー状態不良を生み出すという負のサイクルを解明し、AMPKのエネルギーセンサー機能を介さない直接活性化薬などがCKDの新規治療薬になる可能性を明らかにした。
プレスリリース「慢性腎臓病の新たな治療標的としてエネルギー不全の感知障害を発見 ― 慢性腎臓病の新たな治療法開発へ期待 ―」
The proteasome inhibitor bortezomib attenuates renal fibrosis in mice via the suppression of TGF-β1.
Zeniya M, et al. Sci Rep. 2017 Oct 12;7(1):13086.
多発性骨髄腫治療薬として使用されるプロテオソーム阻害薬のボルテゾミブが腎臓の線維化を抑制することを明らかにした。
プレスリリース「多発性骨髄腫治療薬のボルテゾミブは腎臓の線維化を抑制する ― 新しい慢性腎臓病治療薬となる可能性 ―」
Yoshizaki Y, et al. Sci Rep. 2017 Jun 21;7(1):3945.
CKDの治療戦略として期待されているNrf2の分解を阻害するために、結合によってNrf2を分解に導くKeap1とNrf2との結合阻害薬をスクリーニングし、その中で効果の高かったものを報告した。
東京医科歯科大学および関連病院において慢性腎臓病を対象にした多施設共同前向き観察研究を実施しています。慢性腎臓病の病態、合併症、治療方法および予後について調査し、慢性腎臓病およびその合併症に対する適切な治療法について検討するものです。
Arai Y, et al. Clin Exp Nephrol. 2018 Apr;22(2):291-298.
低い白血球数の高齢CKD患者は腎予後が悪い。
Prognosis of chronic kidney disease with normal-range proteinuria: The CKD-ROUTE study.
Iimori S, et al. PLoS One. 2018 Jan 17;13(1):e0190493.
尿蛋白正常域のCKD患者の腎機能は進行したCKDでも低下しにくい。
Arai Y, et al. Clin Exp Nephrol. 2017 Jun;21(3):481-487
CKD G4-G5において、ビタミンD製剤は腎予後を改善させる。
Mandai S, et al. Clin Exp Nephrol. 2017 Feb;21(1):104-111.
血清クロール低値のCKD患者は死亡リスクと心血管イベント発症リスクが高い。
Kikuchi H, et al. Clin Exp Nephrol. 2017 Feb;21(1):55-62.
BMIと血清アルブミン値の組み合わせと腎機能低下との関係。
Iimori S, et al. Nephrology (Carlton). 2015 Sep;20(9):601-8.
腎臓専門医の貧血管理の実態と死亡リスク。
Iimori S, et al. BMC Nephrol. 2013 Jul 17;14:152.
CKD-ROUTE study登録時データと心血管疾患既往。
実施責任者 飯盛 聡一郎
東京医科歯科大学腎臓内科
03-5803-5214
慢性腎臓病患者のデータベースを利用した臨床研究も行い、慢性腎臓病に関する新規知見を得ています。
Kikuchi H, et al. PLoS One. 2018 Nov 29;13(11):e0208258.
緊急入院となった保存期腎不全患者における肥満パラドックス。
プレスリリース「慢性腎臓病患者において、高体重は短期予後の予測因子である ― 国内大規模DPCデータベースを用いて ―」
Ishikawa S, et al. PLoS One. 2018 Feb 15;13(2):e0192990.
プレスリリース「保存期腎不全患者におけるループ利尿薬使用はサルコペニア合併と関連する可能性がある ― マウスの基礎実験で得られた結果を臨床研究で初めて検討 ―」
Dialysis Case Volume Associated With In-Hospital Mortality in Maintenance Dialysis Patients.
Mandai S, et al. Kidney Int Rep. 2017 Nov 3;3(2):356-363.
本邦のDPC入院データベースを用いた約38万人の解析の結果,年間当たりの透析患者入院症例数(dialysis case volume)が多い病院ほど,透析患者の院内死亡率が低下することを明らかにした。
アフェレシスはギリシャ語由来で「分離」を意味する医学専門用語です。アフェレシス療法は血液中のターゲットを定めてそれを特異的に除去する手法であり、難治性の自己免疫性疾患を筆頭に、重要な治療法として位置づけられています。しかしながらその手法に関わるエビデンスの数は少なく、まだ本邦におけるガイドラインも存在しておりません。今回、われわれはアフェレシス療法を必要とされた患者さんを対象とした治療効果に関わる因子を研究することで、病態に応じたアフェレシス療法を確立することが可能になると考えております。本研究は、医学部倫理審査委員会の承認及び機関の長の許可を得ております。
Immunoadsorption With a Tryptophan-Immobilized Column Using Conventional and Selective Plasma Separators in the Treatment of Myasthenia Gravis.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2018;22(3):301-302.
選択的血漿分離膜を用いた免疫吸着療法により改善した重症筋無力症の症例報告。
Removal Dynamics of Autoantibodies, Immunoglobulins, and Coagulation Factors by Selective Plasma Exchange on Three Consecutive Days.
Miyamoto S, et al. Ther Apher Dial. 2018;22(3):255-260.
選択的血漿交換であれば3日間連続で治療を行っても、凝固因子の低下をきたさずIgGを効率的に除去できることを明らかにした。
Selective plasma exchange.
Ohkubo A, and Okado T. Transfus Apher Sci. 2017;56(5):657-660. Review.
選択的血漿交換の総説。
Fibrinogen Reduction During Selective Plasma Exchange due to Membrane Fouling.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2017;21(3):232-237.
選択的血漿交換において、理論上低下しないはずのフィブリノゲンの軽度低下の原因がファウリングである可能性について言及した。
Selective Plasma Exchange for the Removal of Pemphigus Autoantibodies, Fibrinogen, and Factor XIII in Pemphigus Vulgaris.
Miyamoto S, et al. Ther Apher Dial. 2017;21(3):226-231.
天疱瘡に対する選択的血漿交換の有用性を除去特性の観点から言及した。
Removal Characteristics of Immunoadsorption With the Immusorba TR-350 Column Using Conventional and Selective Plasma Separators.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2016;20(4):360-7.
選択的血漿分離膜を用いた免疫吸着療法の除去特性を明らかにした。
Removal Dynamics of Immunoglobulin and Fibrinogen by Conventional Plasma Exchange, Selective Plasma Exchange, and a Combination of the Two.
Miyamoto S, et al. Ther Apher Dial. 2016;20(4):342-7.
血漿交換と選択的血漿交換そしてその2つの併用療法による免疫グロブリンやフィブリノゲンの除去能を明らかにし、治療効果と安全性を両立させる併用療法の可能性を言及した。
Removal Characteristics of Immunoglobulin G Subclasses by Conventional Plasma Exchange and Selective Plasma Exchange.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2015;19(4):361-6.
血漿交換と選択的血漿交換におけるIgGサブクラスの除去特性を明らかにした。
Removal kinetics of antibodies against glutamic acid decarboxylase by various plasmapheresis modalities in the treatment of neurological disorders.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2014;18(3):231-7.
抗GAD抗体関連免疫性疾患に対する様々なアフェレシス療法の除去特を明らかにした。
Removal kinetics of antibodies against glutamic acid decarboxylase by various plasmapheresis modalities in the treatment of neurological disorders.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2014;18(3):231-7.
抗GAD抗体関連免疫性疾患に対する様々なアフェレシス療法の除去特性を明らかにした。
Solute removal capacity of high cut-off membrane plasma separators.
Ohkubo A, et al. Ther Apher Dial. 2013;17(5):484-9.
選択的血漿交換で使用する選択的血漿分離膜の膜分離能を明らかにした。
実施責任者:岡戸丈和(血液浄化療法部 准教授)
東京医科歯科大学病院 血液浄化療法部
03-5803-5662
慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)は今や成人の約8人に1人、高齢者に限ると約3人に1人が罹患する国民病とも言われます。近年CKDは認知機能低下の危険因子ということが分かってきましたが、その病態機序はほとんど明らかにされていません。腰椎穿刺により得られた脳脊髄液は脳の病的な状態を反映していることがあり、本研究は CKD に特徴的な脳脊髄液の所見について明らかにすることを目的としています。過去に腰椎穿刺を受けられた患者さんの脳脊髄液や血液検査などについて解析を行うことで、CKDに特徴的な所見を明らかします。それによって、CKDによる認知症メカニズムの一端が解明されることや、新しい生物学的指標が見つかることが期待され、診断・診療の向上に繋がる可能性があります。本研究は、医学部倫理審査委員会の承認を得ており、詳細は東京医科歯科大学医学部及び大学病院で現在実施されている臨床研究に関するホームページに記載しております。
研究責任者:萬代 新太郎
東京医科歯科大学腎臓内科